今回の東北旅行の主たる目的は墓参りであった。
多忙を理由にこの七年ばかり疎遠になっていた。
其の罪滅ぼしとついでに温泉三昧をかねて計画した旅である。
本音を暴けば目的が手段といえなくもない。
途中、鶴岡で一泊するのは、
湯田川温泉の寂れた雰囲気が好きなのと、
そこに住む友人と、
旧交を温めようという重いがあってである。
墓参の地は今少し北の秋田である。
鶴岡の友人は京都の出身であり、
若い時代、京都でよく一緒に呑んだ仲間である。
私が秋田出身で京都に根付き、
彼は仕事の都合で鶴岡に家を建て根付いた。
で、今は私が京都で彼は鶴岡と入れ替わり。
ちょっと奇妙な取り合わせと思うのだが、
今の時代、さほど珍しくもないことかもしれない。
村上のサービスエリアで二時間あまり休み、
九号線を走って鶴岡に着いたのは午前十時頃。
夕刻に湯田川温泉でと約束していた手前、
相手の都合もあると思うと、
もう着いたとは連絡し難い。
そこで、鶴岡の市内をうろうろしながら、
この辺の名物“麦きり”の美味い店を探す。
其の途中、観光案内によってクラゲの水族館を紹介される。
クラゲの発光体採取で有名になった水族館である。
市街地からやや外れた海沿いにそのクラゲ水族館はあった。
夏休みということもあって、
来場者は思いの他多い。
水族館の窓口にいる職員、
何を思ってか、
この水族館の名物はクラゲラーメンと薦める。
おいおい、クラゲ見にきた客にクラゲラーメンはないだろ!
といった神経は彼女にはないようだった。
クラゲ水族館で現物入りのラーメンか〜〜!
とてもその気にはなれなかったね〜〜。
昼前に水族館を出て、
観光案内で紹介された鶴岡城公園近く店を訪れる。
茶屋風も店構えで少し期待しながら麦切りを頂く。
嬉しいことに漬け物がサービス!
大好物の小茄子の漬け物が山盛りに群れていた。
しかし、やはりかなり塩辛い。
一個だけ頂いて感謝!
全てにおいて味は濃いのだが、
漬け物サービスに免じて美味しかったことにして納める。
食事を終え時間を見ると二時少し前、
取りあえず友人に連絡すると到着が早すぎるという。
旅館はまだ準備前出迷惑だろうから、
近所の神社ででも時間潰せという。
しかし妻は取りあえず旅館に連絡。
すると有り難いことにいつでもどうぞという返事。
陣内旅館さん、万歳!温泉だ!
鶴岡の湯田川温泉は、
少し南に位置するあつみ温泉と同じく古い歴史を持つ。
しかし、なぜかあつみ温泉街のように発展はしなかった。
しかも、過去に何度か訪れたことのある、
神社脇の古風な旅館は既に廃業していた。
其の神社前で時代劇の撮影が行われたらしい。
町内からエキストラが集められ、
一時は賑わったが、それだけで終わったと友人は呟く。
宮沢りえが泊まったとかなんとかといっていたが、
何とも閑散とした温泉街の風情が空しく聞こえた。
この温泉、湯質は女性的で柔らかく、
温度も四十度くらいでゆるりと長湯出来る。
遅れて到着した友人と近場の一緒に公衆浴場へ、
そこで地元の先客と会話を交わす。
中の一人、この街は湯しかないと零す。
つい、こんなすばらしい温泉があるのに、
温泉しかないはないんじゃないと、
説教がましいことを云ってしまった。
しかし本当にこの柔らかで優しい湯触りは絶品である。
食事はプロの料理人ではなく、
当旅館の亭主の手作りということであった。
決して盛りつけも包丁さばきも、
京料理と比べて巧みとは云えないが、
持て成しの心がそこはかとなく感じられ、
それなりに楽しめた料理だった。
朝食も同様で味付けはそれなりにであった。
それはそれで楽しみようとは思ったが、
あつみ温泉で宿泊すれば、
たとえ小さな旅館でも膳は料理人の設えである。
料金の割にといった思いが、
ほんの少し心に引っ掛からぬではなかった。
友人はこの寂れようを嘆いていたが、
個人的にはこういった寂れた温泉宿の、
心温まる持て成しの方法も工夫次第で、
一興かもしれないと感じたのだった。

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